『End of the night』
濤家には代々受け継がれている刀がある。銘を夜の果てという。
刀身の美しさは孤高のものだった。
その美しさ故に、夜の果てとは永遠に続く暗闇のこと。ずっとそう思っていた。
火急の情事で一度ウルファネアに帰省した。それから、再びアトルニアへ行く際に、兄から無言で夜の果てを渡された。私も無言でそれを受け取った。
受け取った瞬間、「私の夜は明けてないのだな」と思った。
茫然自失のうちにいた私は、無意識に「夜の果て」と呟いていた。風にもかき消されそうな私の声は、隣に座っていた彼には届いていた。自分も自国の公子であるのに、自らも省みず来てくれた友―DX。
「朝だ」
その時、私は相当驚いた顔をしていただろう。自覚はある。
だから彼はもう一度言った。
「夜の果ては朝だ」と。言い聞かせるようにゆっくりと、穏やかに。
「そうだな」
光が見えた。
明けない夜がないように、朝が必ずやってくるように。光が差し込む。
耳を澄ませば私を呼ぶ声がする。
故郷へ思いを馳せると心配してくれている人がいる。
私は独りじゃなかった。
世界はこんなにも広く、温かかった。
END
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